「戦場をかける犬-吠えろアンティス-」書評




古書「戦場をかける犬-吠えろアンティス-」との出会い

実家に黄色い表紙の古びた本がありました。今は転居などで無くなってしまった本。

大きなシェパードの横向きの写真が印象的な表紙の古書でした。

犬好きな子供だった私は、当時、読み始めたところ「犬と戦争のノン・フィクション・ストーリー」にグイグイと引き込まれ、まるで映画を見ているようで、ドキドキしながら読み漁った記憶がありました。

その本には、挿絵ではなく、物語の主人公のシェパード犬「アンティス」と「ヤン」の当時の写真も有ります。

その写真から、文字だけでは伝わらない映画の様な強い印象を残し、私の心の何処かに残っていたのです。

本屋では販売されていないことは分かっていたのですが、先日、ふと思い立ち、Amazonで本のタイトルを検索したところ、販売されていることを発見しました。

しかしながら、やはりこの本は残念なことに絶版となってしまったようです。

ハード・カバー版と文庫本版が販売されていたのですが、実家に有ったものと同じ、ハード・カバー版を購入してみました。

早速、久しぶりに読了したのですが、素晴らしい本であることを再確認したわけです。

絶版となり、このまま、世界から忘れ去られてしまう”ノン・フィクションストーリー”となるのが非常に残念に思え、勝手な使命感に燃えた私はこの本をご紹介したいと思います。

特に「犬好き、戦争を介して人間と犬の友情の物語」の実話に興味を持たれたら、是非オススメしたい本です。

息づまるスリルに満ちた動物文学の傑作

戦場をかける犬の著者

  • 著者:アンソニー・リチャードソン(1899-1964)※イギリスのノン・フィクション作家
  • 原題:One Man and His Dog
  • 邦題:吠えろアンティス-戦場をかける犬-
  • 訳:藤原英司
  • 出版年月日:1966年
  • 出版社:文芸春秋新社

訳者の「藤原英司」さんですが、「シートン動物記」「野生のエルザ」など多数の動物文学の翻訳をされた著名な動物学者・翻訳家です。

著者の「アンソニー・リチャードソン」は、英国のノン・フィクション作家。「吠えろアンティス」以外にも多数著書があるようですが、日本で発売を確認したのは当本だけでした。他にもあるのかも知れません。

軍用犬ではないが、実話としてオススメの本

先ずは、是非、当本の帯に書かれている文章をご紹介したいと思います。保存状態が良く、当時のままの帯が付いていました。

流血の戦場に結ばれた兵士とイヌの奇蹟の愛情を描く感動の記録!

1940年、絶え間ない爆撃のため、廃墟と化した家で一匹の子犬が震えながら死を待っていた。一方、チェコの亡命飛行士ヤンは、ドイツ軍の対空砲火をあびて近くの果樹園に不時着し、同僚と共に休息を求めてその家にたどりついた。

こうしてそれからの14年間信じられないほどの深い愛で結ばれた人と犬とが出会ったのである・・・・・

出典:文芸春秋刊 吠えろアンティス ー戦場を駆ける犬ー アンソニー・リチャードソン 藤原英司訳

これだけでも、何かワクワクしてきませんか?

とても絶版本として埋もれているのは非常に惜しいのです。

時代背景 ナチス・ドイツ〜ダンケルク〜ダイナモ作戦

物語は1940年2月から始まります。当時は、ナチス・ドイツがヨーロッパ各地に侵攻し、第2次世界大戦の真っ只中。

映画「ダンケルク」の舞台となったフランスのダンケルクから、連合軍の大規模撤退作戦「ダイナモ作戦」は、1940年5月から6月にかけての話しであることから、同時期のストーリーということになります。

日本だと、1940年は昭和15年。9月に日独伊3国条約を結ぶなど、今後、太平洋戦争に突入して行く頃ですね。

吠えろアンティス あらすじ

フランス空軍に属し、ドイツ軍と戦っているチェコの亡命兵士「ヤン」、そして同僚のフランス人「ピエール」。

彼らの偵察爆撃機がドイツ軍の対空砲火によって夜間、山中に撃ち落とされる。側には廃墟となった廃屋に、痩せ細り、一人ぼっちで死を迎えようとしていたドイツ・シェパードの子犬がいた。

運命が、ヤンと子犬を引き寄せていた。

墜落した爆撃機周辺を執拗に捜索続けるドイツ兵。逃げるヤンとピエール。

廃墟で子犬を見つけたヤンは、懐に抱きかかえたまま、必死の思いでドイツ兵から逃げ、捜索に来たフランス軍に保護される。

ヤンが所属する飛行中隊はチェコの亡命兵士が7名いた。新しいメンバーとして子犬が加わる。

彼らの故国の空軍爆撃機「A・N・T40」から子犬は「アンティス」と名付けられる。

「アンティス」は子犬の当時から、戦火の中で生きてきた。爆撃・砲撃の音と振動を生まれながら感じてきたアンティスは、爆音への順応性を備えていたのだ。

目次

1.爆音の中で
・みなしごの子犬
・我が名はアンティス
・ジブラルタルへ
・動く荷物

2.戦闘と平和の間
・アンティスの警報
・その犬を追い出せ!
・アンティスの密航
・心と体の傷

3.鉄のカーテンからの脱出
・ウォッカを一杯
・国境を越えて
・アンティスの死

まとめ

チェコの亡命兵士のヤン。戦争は終結したが東西冷戦の影が忍び寄る。物語最終章の「鉄のカーテンからの脱出」は、正に映画の様な描写と登場人物が揃い、見応えのあるものです。

映画「大脱走」を彷彿とさせる数々のシーン。興味を持たれた方は是非、取り寄せて読んでみてください。